いつも通りの日常を送っていた佐久間だったが、下町駅前にて2人組に襲われた。予言の魔術師
ハロルド・メイガス?とその眷属の
リヒト?である。彼等は以前イス人に脱獄の協力をしてもらっていた為、その借りを返す為実験体である佐久間の捕獲を依頼されて赴いたのだ。壮絶な戦闘の末、
リヒト?からの攻撃が後頭部に辺りに佐久間は気絶した事で終わりを迎えた。
気絶した佐久間が次に目が覚めた時は、下町の海岸に寝ていた。だが、下町なはずなのに何かは違和感を感じる、そう思っていると横から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「だ、大丈夫？ここでずっと倒れてたみたいだけど……？」
オズだ、また心配をかけてしまったと反省しつつ、謝りの言葉を口にしようとしたが、ある事に気がついた。
他人行儀過ぎではないか……？嫌な汗が流れた、まさかな……と少し取り乱しながら謝りの言葉を口にした。やっぱりおかしい……！少しおどおどしながら話してくる
オズ?に確認を取った。
「俺が誰か分からないのか……？」
「……え？少なくとも初対面のはずだけど」
「…………そう、か」
夢であって欲しかった、だが現実らしい。気が遠くなるようだった。忘れられている、自分が愛した人に忘れられる事がこんなにも悲しいのだと実感した。今までの出来事等から見てもこのような事はなかった。
オズが言葉をかけてきているようだが、ろくに聞く事が出来なかった。だが、少し気になった事はあった。
オズの顔にあるはずの傷がないのだ。そこでひとつの可能性が頭をよぎったので、海に移されている自分の姿を見た。……やっぱりだ。似てはいたものの眼帯は分かっていたが、ペイントも付いておらずメッシュも入っていなかった。そしてある考えに至った、これは自分の知らない世界に飛ばされてしまったのではないかと。
とりあえずこの世界を調べる必要が出てきたが、手持ちには何も無く、心配してくれていた
オズと共に自分の家があるコロシヤ島に向かったが、そこはただの空き地であった。周りの人に聞いてもここは元からずっと空き地だったようだ。行く宛てもなく帰る場所もない自分に
オズは自分自身の家に誘ってくれた。世界は変われど
オズは
オズなのだと思い、この世界に来てから始めて笑みを零した。
オズの家に入ってまず驚いた事があった。物が極端にないのだ、必要最低限の物しか存在しなく、自分が知っている
オズが大好きであった漫画等もなかったのだ。曰く、趣味がなく勉強をするだけの日々だったそうだ。こちらの
オズは大学に通っているそうで孤児院育ちのようだ。自分の事も話すととても驚いた様だった。傭兵という職業で少し誤魔化したのだか、有り得ないと言ったような反応だった。疑問に思い幾つか質問を投げかけ、その返答に驚くと共に納得した。第二次世界大戦の勝利国はこちらではアメリカだった事、世界一の企業である
スメラギが存在しない事、自分がいる元の世界ではありえない事が多く返ってきたのだ。この答えにこの世界は自分がいた世界とは別の世界だという確信を得た、そして目の前にいる
オズも本当に自分が知らない
オズだったという事も。その事に少し安堵しつつ、自分のこの身体もこの事に何か関係があるのだろうと仮説を立てた。色々と考えも纏まり現状はこの街を調べ、情報を集める事にした。
オズは自分に協力してくれるみたいでこの町の案内もしてくれるようだ。その事に感謝しつつ提供してくれたベッドに身を預け、今日は寝る事にした。
次の日、朝目を覚ますと
オズが朝食を用意してくれており、それを有難く頂くと共に今後の事について少し話し合った。
そしてまず向かったのは図書館だ。ここなら何か情報が有るだろうと元の世界での経験によりその考えに至った。だがそれらしい情報も特に手に入る事もなかった。その事に少し焦りを感じたが気を取り直して午後からは自分が倒れていた海辺を探索した。ここなら何かが……！とそう踏んだのだがここも空振りであった、その途中、犬が近寄ってきてその飼い主が遊んでやって欲しいとの事で、フリスビーを用いて遊んであげた。幾分か気持ちが楽になった気がした。隣にいる
オズも楽しそうなようだった。
日も暮れて特に情報を得られないまま家に戻ろうとした時に着ぐるみを着た謎の人物から、ここから近くの遊園地にある観覧車の割引券を貰った。気分転換になるだろう、それに高いところから見る事で何かが分かるかもしれないと観覧車に乗るにした。観覧車からの景色は綺麗なもので、手がかりという手がかりはなかったが気持ちは楽になった。それに
オズと色々会話する事でも気持ちが和らいだ。やはり自分の知らない
オズではあるが、彼の優しさに触れ一緒に居ることが楽しいと思った。彼自身もすごく楽しそうにしていたので頬が緩んだ。
家に帰り、色々済ませまた明日と眠りに着いたのだが、不意に何かが頭に当たった。何かと思い見てみるとペンだ。なんの変哲もないペン。何に使うのか、そもそも何故落ちてきたのか、上を見ても何も無い。だが何か今のこの状況に関係があるのでは無いかと思い持っておくことにした。
目が覚めると昨日と同じように朝食を取り、家の中に何かないか探したり、病院で身体に異常がないか診察を受けたりとそこかしこを回ってもろくに情報が出てこず、心の中で本当に帰れるのか……？と徐々に不安と焦りが見えてきた。
「今日も手がかり、見つからなかったね……」
こちらを気遣いように
オズはそう言い
「……あのさ、連れて行きたいところがあるんだけど」
「一緒に来てくれる？」
と言ってきたのでそれを了承し
オズに着いていった。小山のような森に入っていき少し不気味な感じもするが、そのまま着いていくと森を抜けた先は、小さな丘になっているようだった。そこから下町全体を見渡せるようだ。
そして夜空にはたくさん星々がきらめき、町の明かりに負けないくらい強く輝いた。
「僕の秘密の場所なんだ。何も考えたくないときに来る。だから、誰にも教えたくなくて」
「……でも、今日は佐久間君と一緒に見に行きたいと思ったんだ。どうしてかな」
「どうして、佐久間君と一緒にいたくなるんだろう」
そんな言葉をかけられ、早く元の世界に帰りたい反面、今この瞬間も大事にしないといけないと感じた。
それからは家に戻り明日に残りの調べていないところを探そうと望みを胸に休む事にした。
すると昨日と同じようにまた上から何かが落ちてきた。よく見ると巻物らしきものだ、もしや何かの手がかりか！？と直ぐにその巻物を見た。そこにはとても受け入れ難い内容が記されていた。
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佐久間 双真様
拝啓 平素はご支援を賜り厚くお礼申し上げます。
この度は<精神交換>実験にご協力くださり、誠にありがとうございました。
本実験の目的は「平行世界への精神交換」を実現させるためのものでありまして、
貴方様のお力によって無事成功させることができました。
実現可能となった今、我々も同様に精神交換による平行世界への移動を行う予定でありました。
しかし、今貴方様がいる世界では、「魔力」及び我々のような「宇宙的生物」が一切存在していないことが判明いたしました。
また、平行世界間の精神交換だと知能は交換されないことがわかり、
我々がそちらに移動するメリットが全くないと判断しました。
そして、多大なエネルギーを使ってまで貴方様たちの精神を
元に戻すメリットも我々にないため、再び<精神交換>を行う予定はございません。
しかし貴方様に事情を説明する義務はあるかもしれないと考え、
エネルギー消費が少ない「物質転移」によって文をしたためた次第です。
ただし、貴方様にもメリットは十分にあると自負しております。
調査したところ、あなたは宇宙的現象に巻き込まれやすい人間（我々は「探索者<サーチエスト>」と呼んでいます）のご様子。
しかしそちらは宇宙的生物・現象が存在しない世界。貴方様がこれ以上危機に陥ることはありません。
どうぞご安心して人間の生活をお送りください。
我々が物質転移を行うのもこちらが最後になります。
今後そちらの世界に我々や宇宙的存在が干渉することも一切ないことを保証いたします。
上記の内容につきまして、ご理解・ご納得いただけますと幸いです。
ご確認の程何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具 社団法人Is<イース>
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……………………………………………………………………………………けるな。
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな！！！！
今すぐ帰せ！！！メリットがない……？馬鹿言ってんじゃねぇ！！！！人をおちょくるのも大概にしろ！！！！！！
もう何もかもがぐちゃぐちゃだった。ただ分かる事は
【もう元の世界に帰ることが出来ない】
というあまりにも残酷な事実だった。絶望し、何も考えられなくなった。夢なら覚めて欲しかった。こんな日常求めてなどいなかった。ただ自分は皆とあの世界で過ごしたかっただけなのに……。なぜ自分なのか…………。そこからの記憶はあまり覚えてない。
次に目が覚めた時はいつもと同じ様な光景。ただ違うのは自分の手元にある巻物だ。……夢じゃない、現実だ。
オズが心配そうに言葉を投げかけてくれるのだが、ろくに聞く事が出来なかった。
‥‥‥いやまだだ、まだ調べられてもない場所があるはずだ。ここで諦めてしまっては本当に帰れなくなる。待たしてしまっている
愛しい人がいるんだ。絶対に諦めてなるものか！そう自分に言い聞かせ、
オズと共に駅前に向かった。
駅前に着くと少し記憶が戻ってきた。そうだ、俺はここで襲われて気絶したのだ！そして目が覚めると海辺に倒れていたのだ。自分が実験として精神交換され、帰ることが出来なくなった過程などを思い出したのだが、肝心の帰る手段が見つからなかった…。意気消沈したまま、家に戻って休んでいた。それに心配した
オズが
「‥‥‥ゲームでも買いに行く？確か好きだったよね。」
「佐久間君に元気になってもらいたくて、さ」
とこちらを気遣うように言ってくれた。そうだ、せっかく自分の戯言のような内容にも信じてくれた
オズに心配まで掛けさせるわけには行かない。気持ちも切り替え礼も言いつつ、ついていくことにした。この世界のゲームの印象はとてもカラフルで色々な種類、ものがたくさんあってとても新鮮に感じた。この世界のポケットモンスター・ソードを購入し、家に戻る際に妙齢の女性に声を掛けられた。
「……マコト？」
「マコトよね！ ああ、やっと見つけた！」
「急に連絡も取れなくなったから心配していたのよ」
「その人は誰？ お友だち？」
最初はなぜ自分が声を掛けられているか分からなかった。誰だ？と投げかけると
「何を言っているの？ 私はあなたの母親よ。何かの冗談？」
「３日前、突然あなたが帰って来なくなって本当に心配していたのよ。一体どうしたの？ 何があったの？ 体調がおかしいなら、明日病院に行きましょう。ひとまず今日は帰ってきてちょうだい」
どうやらこの身体の持ち主の母親だということは分かった、だがまだ戻るわけにはと一日待ってくれるように言ったが
「お願い、そんなこと言わないで。ずっとずっと心配して探していたの。どうか今日だけでもいいから……」
と言われ困っていると、その様子を見ていた
オズが
「一度帰ってあげた方がいいんじゃないかな…？心配してるようだしさ。」
と母親の心情を察して投げかけてきた。確かに自分の息子がいきなりいなくなると誰でも心配するか、と納得し提案を聞き入れ一度戻ることにした。戻る際に
オズがこっそり何かを渡してきた。それは部屋の合鍵だった。
「いつでも僕の部屋を使ってくれていいから」
そう言うと、
オズは一人で自宅へ帰って行った。
しばらくつれられて着いた家の表札には「田中」と書かれており、自分の今の体の名前が「田中マコト」であると分かった。
母親につれられ家の中に入ると、父親らしき男性に出迎えられた。
「マコト、おかえり。本当に帰ってきてくれたんだな」
「この子、いろいろ混乱しているようだけれど……ひとまず夕食にしましょう。たくさん作るからいっぱい食べてね」
「ああ、俺も料理手伝うよ」
田中マコトの両親は自分を心配し、労わり、気遣う。自分は「田中マコト」ではないことがとても申し訳ないと思うほどに。
夕食もそこそこに風呂などを済ませる過程で家を見て回ったが、当然ながら手掛かりになるような物は一つもなかった。今外に出るわけにも行かず、今夜はここで休むことにした。明日も朝から
オズに向かおう、そう考えながら。
次の日、親に断りを入れ外に出て
オズ家に向かった。鍵が掛かってはいたが合鍵を使い、中に入るとテーブルの上にはノートとボタンの付いた通信機のようなものがあった。なんだこれは？と思った矢先、通信機から声が聞こえてきた。それはあまりにも聞きなれた声であった。
『おい、聞こえてるか。佐久間 双真、そこにいるのか？ ……くそ。やっぱりそっちの声は聞こえないのか。これで何度目だと思ってるんだよ。おい、ほんとに僕の声、届いてるのか？ ああでも、とにかく言うしかないんだよな……』
『なあアンタ、早くそのスイッチを押してくれ。こっちにあるスイッチはもう押した。アンタがそれを押せば、<精神交換>ってやつが発動するらしい。そうすれば僕とアンタの精神は元の体に戻る。元の世界に帰れる！ だから早く、なあ、聞こえてるんだったら今すぐに押してくれ！』
『ああ、あとなんだ、なんだっけ。そう、たしかそのスイッチ、水に弱いらしい。だから絶対ぬらすなよ。壊れたら一巻の終わりだ。注意してくれ。いや、そんな注意しなくたって、今すぐ押してくれたらいいんだ。だから早く、早く、なあ、』
『なんでこんな目に遭わなくちゃいけない？ 僕はただ、ただ普通に暮らしていただけなのに！』
そう、それは佐久間 双真、自分の声であった。
『ああ、ああ、もう勘弁してくれ！ こんな世界もうたくさんだ！ 頼むよ、助けて、もう嫌だ、誰か、誰か……！』
それっきり通信機から声が聞こえなくなった、向こうの体に入っている「田中マコト」は精神的に相当参っていた様子だった。それもそのはずだ、彼はこの世界の住人である。何も神話的事象もなく平和な日常を暮らしてきた人間が向こうの世界にいけば狂気の一つや二つ掛かってもおかしくはない。それにこれで自分が元の世界に帰ることが出来るのだ！スイッチを押そうと通信機に手を伸ばすと隣にノートがあることを思い出した。ふと気になり目を通すと
オズが書いた日記だということがわかる。
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XX.XX(4日前の日付)
人を拾った。
何もない人生の中で初めての経験だ。
せっかくだから、これをいい機会に、というのも変かもしれないけれど。日記でもつけてみようかと思う。
彼の名前は佐久間 双真というらしい。彼が話すことはひどくヘンテコで、だけど不思議と信じたくなってしまう。
なぜだろう。普段ならそんなこと決してないと思うのに、
きみのことが、ひどく気にかかる。
XX.XX(3日前の日付)
日記とは何をどんな風に書けばいいんだろう。慣れないことはするべきじゃない。
ただ、今日はとても楽しかった。
今まで生きて来た中で一番。
どうしてきみといるだけで、こんなに胸があたたかくなるんだろう。
XX.XX(2日前の日付)
楽しかった。とても。ひどく泣きたいくらい。
佐久間君は元の世界に帰りたいんだろうか。
それが当たり前だとわかってる。わかっているけれど。
でも、そうしたら、僕はまたひとりぼっちだ。
XX.XX(1日前の日付)
彼の本当の名前（元の体の名前？）がわかった。
マコト、というらしい。
変な感じ。違和感。むずむずする。
だって、僕にとってきみは佐久間君で。でも、きみにとってその体は本物じゃなくて。
ひとりきりの食事は3日ぶりだ。たった3日。元に戻った。ただそれだけなのに。
きみとはなしがしたい。
きみといっしょにいたい。
だって、きみがいないせかいはこんなにさみしい。
XX.XX(今日の日付)
別れが最初から決まっていたのなら。
孤独の空虚さを、きみがいないせかいのさみしさを、思い知らされるくらいなら。
だったら。
きみといるせかいがこんなにしあわせなんて、知りたくなかった。
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ページの端はぐしゃりと握りしめられたような跡が残っており、また、数滴しずくが落ちた跡も付いていた。彼からしたら自分は唯一の友達だった。そして自分からしたら･････。その日記に少しメッセージを残し、部屋から出て行った。
その夜、
オズとの二人の秘密の場所である、小さな丘に向かった。そこに行くと
オズが居た。それもそうだ、自分がノートにそう書いたのだから。
オズは震えた声で自分に言葉を紡いだ。
「部屋の中で、そのスイッチと通信機を見つけたんだ。そんなの見たことないし、きみの落としものかなって思ったんだけど。通信機から声が聞こえて。……正直、何言ってるのか全然理解できなかった。ただ、なんとなく、それがきみが元の世界に戻るためのものなんじゃないかっていうのはわかった。それで合ってる？」
『…ああ、そうだ』
「……そっか。そうなんだね」
「大丈夫、……大丈夫だよ」
「だって、元に戻るだけだ。本来なら、僕たちは出会うこともなかった。そうなんでしょう？」
「気遣ってくれるのは、もちろん嬉しいけど」
「元の世界には、きみの‥‥大切な人たちがいるんでしょ…？」
「きみがここにいたら、その人に悲し思い…させちゃうよ…」
「だって、きみがいないってだけで、こんなにも‥‥‥さみしいんだから」
大丈夫だよ、
オズは繰り返しては泣きながら、そして涙を拭い、笑う。
「さみしいけど、でも、大丈夫」
「きみが幸せをくれたから」
「知りたくなかったって、そう思っちゃったのは‥‥本当だけど」
「でも、きみと出会わなければよかったとは、ちっとも思えないんだよ･････」
「きみと過ごしたこの数日間さえ覚えていればっ、これからも生きていける気がするから…っ」
だから、と。
震えた声で、ぐしゃぐしゃになりながら、それでも
オズは笑う。
自分に選択を委ねるように。もう決めていい、と言うように。
『俺とお前のこの三日間は決して偽物じゃねえ、本物だ。』
そう言って
オズを抱き寄せた。
『…………こんな馬鹿げたことを言う俺を、信じてくれて本当にありがとう。』
「う゛ん…僕の方こそ、一緒にいてくれてあ゛り゛がどう゛‥‥！」
『どんなに離れていようと俺とお前は……ずっと親友だ。』
「う゛ん゛…！」
そして自分も泣きそうになりながらスイッチを押すとするとスイッチが起動し、小さな画面に文字が表示された。
「<精神交換>を実行する場合はもう一度スイッチを押してください」
そう表示されもう一度スイッチを押した。すると意識が段々遠のいていき、その際に声が聞こえた。
「双真君といたこの数日、とても、しあわせだった」
「泣きたいくらい、幸せだったんだ」
「きみと出会えて、ほんとうに――
‥‥ああ、俺もほんとうに――
潮のにおいはしない。
波の音は聞こえない。
自分の体で目を覚ます。
聞き慣れた声が、耳に響いた。
「マコト……いや、双真君？」
そこにいるのは自分がよく知る
オズだった。
あたりを見れば、そこは見知らぬ路地裏。一体何があったのか、自分も
オズも服や体がボロボロで、明らかに何かしらに巻き込まれたであろうことは見てとれる。
何があったのか尋ねようとすると、
オズは先に答えた。
「ああ、大丈夫。もう終わった……というか、なんとか脱出できたというか、もう追いかけられることはなさそうというかっ」
「ひとまず帰ろっ。落ちついたら、ゆっくり全部話すからっ」
『そうか、心配かけたな。‥‥ただいま』
「はいはい、おかえりっ」
「ほんとにさっ、苦労したんだよ？」
「マコトって奴さ、全然役に立たないんだよ！」
『仕方ねえよ、あいつは一般人なんだから』
「そうなの？別に知らないけどさっ」
それよりも、と。
彼はあなたの手に触れ、その温度を確認する。そして、泣きそうな顔で頬を緩ませる。
「よかったぁ。双真君が、戻ってきてくれてぇ‥‥っ」
『当たり前だ、お前を残して行けるわけねえだろ？』
『帰ろうぜ。』
「うん！」
そうしてまた波乱万丈な日常が待っている。
それでいいのだ、これが自分の日常なのだから。
それに隣を一緒に歩く
愛する人がいる。例え世界を跨いで引き裂かれそうとも、
オズへの愛は途絶えることはない。
これからの未来を二人で共に歩んでいこう。そう誓った。
だって、
きみいるせかいはこんなにみちあふれているのだから！
それに向こうにいる親友を応援してくれているはずだ。たった3日間だが、大事な一時を共に過ごしたアイツならと、そう信じてｰｰｰｰ
「幸せにね、双真君。」
ｰｰｰｰ何処からか、そんな声が聞こえた気がした。
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