波間大学1芸術学部 音楽アーティスト科へ入学。
↓
闇取引の現場を目撃し、薬物を投与された上で拉致監禁される。
しかし、運良く薬物の効きが悪かった為に、脱走を試みる。
ほぼ同時に拉致監禁された
鬼柳 星乃を発見し、救助。
最後の最後、逃げ出す場面で闇組織の追手から逃れる為に大怪我を負うが、
星乃の助けもあり、暫くの後に無事全快した。
また、どうやら遊撃科の
星乃は同学年から一人、護衛対象を選定して常日頃行動を共にする必要が有るらしく、
その対象へと指名された。
いきなりの事で少し驚いたが、元気で面白そうな子だしまぁ全然良いか…と思う昴だった。
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あるナイトクラブにて
星乃、
乱堂 狼子、
槐と共に映画を観る。そこで
星乃とアイドル活動をしたり脱獄をしたり(失敗したが…)、新婚旅行に行ってみたりという様々な経験をする事に。その場では色々な出来事が重なってしまった為あまり意識出来なかったが、帰宅後、僅かの間ではあるが
星乃と新婚夫婦であった事を思い出し、赤くなり、取り乱してしまった。
また、オーナーの計らいによりAPPが22になった。バンドメンバーは全員超絶イケメン揃いなので、少し安堵した。
そして、元々女性の身長等は気にしない昴だが、横にいた
星乃が10cm身長が低くなった事により上目気味になり、想像以上の破壊力に目を合わせる事が出来なかった。
自分にいつもひっついて来てくれる子が、本来的にはかなり可愛い子だという事を否が応にも再認識させられてしまい、「どうしたもんかな…」と頭を掻く昴だった。
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スタンダード ・ナンバー！のネタバレを含みます。
リーベングイズのXiao、槐らと共に、ひょんな事からロックバーでの演奏イベントに赴く事になる。
当日は友人達も是非連れて来て欲しいという事だったので、同学年の友人や星乃を誘って訪れたが、
そこでトラブル発生。なんとロックバーにいる人間全員の生命と引き換えに、死んだ自分達を生き返らそうと画策する者がいたのだ。
星乃を連れて来てしまった手前、これはまずいぞと奮闘。
得意楽器であるベースを掻き鳴らし、首謀者を音楽の力で屈服させてなんとか目論見を撃破した。
その後はリーベングイズ来訪に気付いた大興奮の一般客を目の前に、アンコールも大成功させ、翌日のニュースを賑やかすのだった。
音楽の力ってすごい。
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リーベングイズメンバーらと共に、肝試し感覚である廃村へと凸。
それ相応に恐ろしいものを見たりした筈なのだが、本人はどこ吹く風。というより鈍感過ぎる。
正気は大幅に損ないながらも、なんとか村から脱出出来た。
↓
※ボトルシップは波を切る のネタバレを含みます。
昴は病院のベッドで記憶を反芻する。
知り合いに誘われ、
星乃と共に3人でクルーザーに乗り込んで大海原へと遊びに行った。
…までは良かったのだが、突然の異常気象に見舞われてクルーザーのエンジンは停止。海上にて遭難してしまった。
数日間は備蓄を分け合って生活をしていたが、助けが来る様子は無い。海原は無口にじわりじわりとこちらを追い込み、3人の精神を極限まで蝕んだ。
知人は発狂してしまっておおよそ7日目には海へ飛び込み、自身も不気味な幻覚に苛まれていた。
そんな中、前後不覚になった自分の事を必死に生かす為、
星乃は何度も何度も…口を重ね、水や食料を流し込んでくれた。
お陰で自分は元気を取り戻し、13日目に奇跡的に救助されたのだ。
ふとスマートフォンを見ると、Twitterでは早とちりなファンが追悼リプを山の様に送って来ている。
そうか、流石に2週間も消息不明なら、世間的にはそうなるか…。
気の利いたツイートも思いつかないので、諦めてスマートフォンを枕元に戻す。
その横のベッドには疲れ果てて寝てしまった
星乃。
起きていた時は、お互い気恥ずかしさから顔を合わせる事すら出来なかったが、今なら少しは素直になれそうだ。
「ありがとうな、星乃」
艷やかな横髪をそっと撫ぜ、再びベッドへと身をもたげた。
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※果てにて のネタバレを含みます。
星乃と共に世界の終焉を体験する。
異常気象が吹き荒れ、恐ろしくもおぞましい、異形の怪物に破壊し尽くされた町を横目に、なんとかこの壊れた世界を巻き戻せないかと、瓦礫を踏み締めつつ彷徨った。
しかし、何らかの呪いか、自身と
星乃の両手足は陶磁器の様に固まり始める。抗うかの様に情報収集に努めるが、有効な手段は出てこない。
そうこうしている内に、隣に居た
星乃が遂には動けなくなってしまった。
地に倒れそうになるその身体を必死に捕まえて抱き寄せる。
今咲いたばかりの花のような、生き生きとした美しさを持っていた彼女の瞳は既に光を失い、口は多少動かせる程度で、耳も辛うじて聞こえているかという状態だった。
街で誰かが言っていた事を思い出す。
『私たちの体が固まってしまっても…脳は死なずに生き続けます…』
…つまり、それは生ける屍だ。そんな残酷な事があってたまるか。
死より恐ろしい何かがすぐそばまで迫っていて、突然自身の足首を掴みそうな感覚に心が支配されていく。
「昴…いるのか…？」
星乃の疲れ切った、それでいて怯える様な声で、ハッと我に帰る。
思わず、応える様に手を握った。上手く言葉が出てこない。
二進も三進もいかないその状況に胸は詰まり、叫び出したくなる。
だが、叫んだからといってどうなる？
今の自分に出来る事など何も無い事くらい、深く物事を考えない自分の脳でも、嫌になる程理解出来ていた。
それならばせめて、少しでも安心する様な言葉を掛けてやりたかった。
「見えなくなっても…聞こえなくても…ずっと隣に居てやるから。」
詰まる喉から紡ぎ出した、紛れも無い本心だった。
例え世界が終わっても、自分がこのまま世界のオブジェと化しても。
最後まで
星乃の隣に居てやりたい。
荒れ果てた世界の中心で祈る、せめてもの願いだった。
「…そうか…。」
自身の、絶望から来るせめてもの幻覚だろうか。
固まっている筈の
星乃の顔が少し綻んだ…気がした。
…そうしてその言葉を最後に、
星乃は…この果てた世界のオブジェと化した。
「……星乃、………星乃っ…。」
頬に伝うそれは、季節外れに舞う、雪の結晶が溶け出したものだったのだろうか。
まだ君に言えていない事が沢山あった。まだ君とやりたい事が沢山あった。
星の数程の思いの束が、溢れて来る。
彼女の彫刻を抱きしめて、世界に呟く。
『誰か助けてくれ。』
「なんで人間がこないな所におるんやろなぁ？」
「…………お前は誰だ？」
誰もいないこの世界で、
いやに不気味な笑顔をする男が、目の前に現れた。
…こいつの微笑みにはなんの深みも感じない。機械的に見せるスマイル、習慣の一つ、ただ笑顔を形づくっているだけの微笑み。そしてその微笑みの濃度の薄さを、自分の心が恐れていた。
聞いてもいないのに男はぺらぺらと喋り出す。話は要約するとこうだった。
・お前達がいるこの世界は、VRゲームの世界や。
・しかし、このままだと１ヶ月後には同じことが現実でも起きる。
・そこで、お前達の意識を現実に戻してやる。
・事件の黒幕が使うPCに、指定するコードを打ち込んで阻止しろ。
という内容だった。
にわかには信じがたいが、確かにこの世界に来る前、
星乃と共に商店街でVRゲームをした。…今となっては、幸せな時間だった。
どちらにせよ、もうこの手しか縋れない。たとえ芥子粒ほどの望みだとしても、再び彼女に会える可能性があるのであれば…俺はそれを選ぶ。
意を決して頷くと、意識は闇の沼へと滑り込んでいった。
…………
……
…
気がつくとそこは、揺れ動くトラックの中だった。
煩わしいVRヘッドセットを、頭からかなぐり捨てると、そこには驚く様な眼差しを向ける黒縁メガネの男―――事件の首謀者が居た。
そいつを目にした途端、爆発的な感情が直角にせり上がってくる。
「テメェか、事件の首謀者は。」
兄との決定的な差は此処なんだろう。確実に俺は未熟だ。
草原のようだった心に、火矢が放たれるのを感じる。
風に煽られ、瞬く間に火は燃え広がり、灼熱の海へと変わった。
ブチリブチリと、葦の葉のように繊維質な心がキレていく。
この俺と―――
星乃を、VRだかなんだか知らねえけど、あんな目に合わせた事は絶対に許さねえ。
そこから先は一瞬だった。こちらの攻撃が直撃した男は気絶し、あの男が現れ、"後片付け"をしていった。
全てが終わった事に酷く安堵し、全身の力が抜けていく。
ふと横を見ると、
星乃がこちらを覗き込んでいるのが見えた。
思わず抱き締めそうになるのを堪え、その顔にぷにぷにと触れる。
……柔らかい。
あの陶磁器の様な固く冷たい皮膚はそこに無く、ただ困惑する
星乃の表情だけが花咲いていた。
その後の夜。
星乃を送り届けた後、帰路にて今日の出来事を思い返す。
止まった世界で
星乃と再会出来た時の感情、身体の自由を奪われた
星乃の最後の表情、戻ってきて再会したプニプニ顔。
…可愛かったな、アイツ。
気を紛らわそうとTwitterを開いても、何も頭に入ってこない。
ファンからの称賛のリプも今は上の空だ。
脳裏にはシャボン玉の様に
星乃の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。
ああそういえば、結構思い切ったことも言っちまった気がするなー…。
気を紛らわすかの様に、残りの帰路は走って帰る他無かった。
↓
ブルー・スターズ・セパレート のネタバレを含みます。
ある朝、大学へ行くのに待ち合わせ場所で星乃を待っていたのだか、待てども待てども星乃が来ない。
寝坊か？と訝しんだものの、電話も出なければ家も不在だった。
一体…？と困っていると、一通の封筒が昴の元へ届けられる。
中には使い捨てのLINEIDと…緑の髪の毛。
直感した、星乃の身に何かあったのだ、と。
嫌な感覚に背筋を撫でられつつもIDを登録すると、すぐさま通話が掛かる。
出てみれば明らかに怪しい覆面の連中と…星乃が居た。後ろ手に縄で縛られ、明らかに捕まっている状態だ。
「テメェら自分が何やったか分かってんだろうな？」
黒い憎悪が頭の中に満ち満ちる。
星乃といえば呼び掛けてはみるものの、俯き目を逸らし、言葉は返さない。
逆にそれで少し冷静になった。ああ…何か考えがあるんだな。それならこっちも冷静に助け出す手筈を考え…と思ったのも束の間。突然星乃が覆面の連中共に襲い掛かった。え、星乃さん？？
焦ったのか、覆面共は星乃を映すのを止めて通話を切ってしまった。
そして無事に彼女を返して欲しいのであればと言わんばかりに謎の指示が飛んでくる。
犯罪者共の言いなりになるのは癪だったが、他でもない星乃の身に迫った危険だ。
沸き立つ黒い突沸を必死に鎮めながら、指示に従っていくのだった。
………
漸く星乃の場所が分かった。
ありがちだが、星乃と交換で身代金を要求された。
幾らか金額を尋ねると「彼女の価値分の金額を持ってこい」だと。
ふざけるな。金で彼女の価値を換算できると思っているのか。
俺にとっては、世界中の金を集めた所で星乃と等価になんてならない。
ピリピリと抓るような痛みがこめかみを啄く。
…どうやら相当イライラしてるらしい。
人の事を言えたものではないが頭の悪そうな連中だった。とりあえず札束を見せれば満足はするだろう。
腹の虫をあやしながら、家で1番大きなスポーツバッグに銀行で札束をありったけ詰める。
金額なんてどうでもいいが、どうやら3億円くらいあったらしい。…メジャーデビューしておいて良かったな。
不機嫌な顔を取り繕おうともせずに、タクシーで交換地点の山中を目指した。
………
身代金交換は行われた。
しかし困った事が起こった。右手にはいつもの星乃、左手には覆面共の服を身にまとった星乃がおり、対峙している。
でもなんとなく、右手のいつもの星乃は…星乃じゃない気がした。星乃は俺の事を「昴くん」なんて呼ばない。
昼間偶然助けたおばあさんの話が頭に響く。
『詐欺とかに引っ掛からない為には…お互いだけ知ってる秘密とかを質問したりするのがいいのかもねぇ。』
なんとなく結果は見えていたが、右手の星乃に質問を投げる
「この前、知り合いと3人で遊びに行ったよな…あれって何処だっけ？」
簡単な質問だ。答えは海だ。遊びに行ったものの、そのまま遭難した強烈な思い出だ。
しかし、その星乃はバツが悪そうに口を噤んだ。
ああ、やっぱりな。
振り直り、左の星乃には別の質問を投げ掛けた。
「俺、世界の終わりに星乃になんて言ったっけ？」
険しい顔を浮かべ、拳銃をプルプルと構えていた星乃は、そんな俺の質問にわたわたと表情を崩す。
「そ、それを今言うのは恥ずかしいぞ…！！？ で、でも…一緒に居てくれるって…。」
少し意地悪だったかな。
「つまりそういう事だよ。」
そう言って左の星乃の元へ歩く…こうとしていたのだが、不意に右手を右の星乃…じゃない何かに、グッと掴まれた。何か決断的なものを感じさせる力強さだった。
突然の事に抗えず、湖へと引き込まれる。
あっという間に水面が遠のいて行く。水圧で肺が押しつぶされそうだ。月夜を受けてきらきらと光る水の天井は、美しい夜空のようにさえ思えた。
ふざけるなよ、こんな幕引き――。
希望を手繰るかの様に手を伸ばす。遠のきそうな意識の中、水面の天の川から…天女が落ちてきたのが分かった。
まるで織姫のような彼女は…星乃の顔をしていた。
………
気付けば、地面に咳き込んでいた。
肺から水分を逃がそうと、必死に身体が生命の役割を果たそうとしている事が分かる。この苦しさこそ、生きている何よりの証明だった。
隣では同じ様に織…星乃が咳き込んでいた。
助けてくれてありがとう。そう心の中で呟きながら、自分の幾分か後に水面から放り出た人影に目を向ける。
星乃のフリをしていたそいつは、顔をズワズワと変貌させると、本性を表した。
なんだか俺の事を運命の人だかなんだか喚いているが、ふざけた事を言うなよ。
俺の大事な人に危害を加えた時点で、その可能性は無い。
…って言っても聞いてくれそうな奴じゃないな。
手荒な真似は嫌いだが、こうなったらもう力で抑えるしかない。
星乃の事もあるし……手加減はしねぇからな。
………
かくして、今回も事件は収束した。
首謀者は湖に消え、星乃は怪我も浅く無事だ。
そういえば、と星乃が紙袋を手渡してくれる。
中を覗けば、らんと輝くピアスが一対。星乃がその耳につけるピアスと似たようなデザインだ。
思わずこれは？と尋ねれば、誕生日プレゼントだ、と星乃。
ああそうか、今日は7/7、七夕か。この事件ですっかり抜け落ちていたけど、星乃も俺も誕生日じゃないか。
星乃が俺を考えて選んでくれたプレゼント…まいったな、凄い嬉しい。
ん…誕生日？
…まずい、俺…星乃に何も用意出来てない…！
自分の甲斐性の無さに辟易とする。ああ、どうするかな…そうだ。
「プレゼントの代わりになるかは分からないけどさ、良かったら今度…遊びに行かないか？」
星乃もちょっと驚いてはいたものの、快く了承してくれた。
ああ、今からその日が楽しみだ。
…ちょっと待てよ？これってもしかしなくてもデートじゃないか？
考え無しに誘ってしまった自身の行動が気恥ずかしく、困惑しつつも、その日が待ち遠しくて仕方ない。
…なんだか今は素直にそう思えた。
↓
ある日、星乃が長かった髪をバッサリと切って現れた。
突然の事に動揺すると共に、自分の心臓が激しく波打つのを感じる。
いや、お前、本当に…卑怯だろ？？？
…可愛い。浅はかな表現かもしれないが、そういう感想が真っ先に出てくる。
当然、長髪の時から可愛かったのだが…ギャップも相まって…ああまってくれ、そう考えると余計可愛く見えてきた。なんだこれ…ああくそ。
少しずつ自分の顔が紅潮していくのを感じる。それを不思議そうに覗く星乃。
ちょっと待て、待ってくれ、それは、ヤバいから。
逃げる様にその場から駆けた。気持ちを落ち着かせる為に。
こんなのもう、自分の気持ちを認めざるを得ないじゃんかよ。
彼の走る風に揺れ動かされ、何処かの軒先の風鈴がちりんと鳴った。
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初恋性ストックホルム症候群、描かれなかった3日間。
あの事件から暫くの後、今日は星乃とのデート当日だ。
枕元の目覚ましは、セットした時間から二時間も前の時間を指していた。普段は格闘相手のその無機物も、今日は勝ちを譲ってやるぞと言わんばかりに、澄ました音をカチリカチリと立てていた。
柄にも無く緊張してるのを嫌でも実感してしまう。
トーストは焦がすし、手元がブレてミルクも零した。
ステージから見る何千何万の男女には常勝無敗の自分でも、今は一人の女の子相手に何の対策も出来そうになかった。
覚束無い足取りでせっせと身支度を済ます。
誕生日プレゼントで星乃に貰ったピアスは、昨日の夜に忘れないように玄関に置いておいた。
姿見に顔を近付ける。
新品のピアスが耳元で輝いた。
思わず笑みが零れる。…俺らしくもない。
意味も無くスニーカーの靴紐を結い直して、つま先を玄関で蹴り整えた。
扉を開ければ天気も良く、世界の全てが自分を祝福しているように感じる。さぁ、今日はめいっぱい楽しもう。星乃と一緒ならばどこへ行ったってとびきりの一日になるだろう。
駆け出したい気持ちを出来るだけ抑えて、歩き出した。
………
星乃は約束の場所に来なかった。
電話もしたし、LINEも送った。でも、返答は無かった。
…嫌な胸騒ぎがした。
普通だったら怒ったり悲しんだりするんだろうな。
でも、あんな事があった手前、星乃が何も連絡無しにドタキャンするとは思えない……それとも何か、怒らせるような事、したかな…。
纏わりつく嫌な疑念を振り払いながら、俺の足は星乃の家に向かっていた。
………
駄目だ、居ない。
俺の嫌な予感は恐らく、的中した。
星乃は家に居らず、仲良しの狼子ちゃんや槐に電話すれば、確かに昨日は夜まで一緒にいたそうだ。
…可哀想に、狼子ちゃんの声は震えていた。
だけどごめんな、今は星乃の事しか考えられない。
今、どこかで星乃が怖い思いをしているかもしれないと思うと、胸が締め付けられる気がした。
「必ず無事で居ろよ…。」
誰に言い聞かせる訳でも無く、呟いていた。
…きっと自分に言い聞かせる為だったんだろう。
まだ日は高い。
きっと見つかる。
そう信じて雑踏へと駆け出した。
………
ああ、なんで居ないんだ。
夜は更け、早熟な鈴虫が草陰で静かに鳴き、町は眠りについていた。
だけど俺は眠る訳にはいかなかった。
狼子ちゃんの家と星乃の家を結ぶルートをくまなく探してみるものの、手掛かりらしいものは得られなかった。
市内の病院にも掛け合ってみたが、収穫は無し。
となれば、いよいよ誘拐以外考えられない。
何処にいるんだ…。
焦燥感が血液のように胸に滲む。
前回は阿呆な奴らが首謀者だった。だが今回のやつらが切れ者の、完全なプロ集団だったらどうなる？
一瞬、惨い姿の星乃が脳裏に浮かぶ。
ざぁっと背筋が凍てつくのを感じた。
疑念を振り払うかの様に頭を振り乱し、ぴしゃりと頬を叩く。そんな訳ない。星乃ならきっと、上手くやる。
眉間に力を入れ直し、再び街へと駆け出した。
………
いつのまにやら夜は明け、時計の針はシエスタをつげる様に真上へ伸びをしていた。
昨日の晴れ間が嘘のように曇り、街は深い陰に覆われる。
雨を察知した主婦が、足早にスーパーの小袋を抱えて歩いていた。
見つからない。
ゴミ捨て場から古い自転車を見つけて行動範囲を広げたものの、星乃らしい人影は未だに掴めない。
警察にも相談したもののマトモにとりあって貰えず、Xiaoも海外旅行中だとかで繋がらない。
朝から槐や狼子ちゃんが捜索を手伝ってくれたのは嬉しかった。
とはいえ、言い方は悪いけど見つからなければその意味は薄い。
夏の、湿度の高く滑り気のある風がジワジワと体力を奪っていく。
思えば昨日の朝から水以外何も口にしていない。
だけど、何か食べてる暇なんて無い。こうしている間も星乃は苦しんでいるかもしれない。
そう思うと、食欲なんて湧かなかった。
「待ってろ星乃、俺が必ず…。」
あの笑顔にもう一度触れたい。
あの焦った様に目を泳がせる表情をもう一度眺めたい。
跨った自転車のペダルが妙に重く感じる。
まだきっと見れてない場所がある筈だ。
息を切らしつつも、再び街を彷徨い始めた。
………
星乃が横に並んで歩いていた。
優しくて朗らかな笑顔を俺に向けている。
そうだ、俺が誘ってデートに来たんだっけ。
俺が笑い掛ければ、彼女は照れた様に笑って、でも何度だって応えてくれる。
身体が離れない様に、ゆっくりと俺達は歩いていた。
「あ、」
誰かの、呆けた声が聞こえた気がした。
それと同時に何か、ガラガラと何かが崩れる音を聞いた。
金属がぶつかり合うような嫌な音だ。
ふと、上を見上げれば頭上から何かが落ちてくる。大きく、巨大な質量が。
俺達を押しつぶそうとする。何本もの鉄骨が俺達へと迫っていた。
危ない。
そう思ったのも束の間。トン、と音がする。
横に視線を向けると、離れていく星乃が見えた。突き飛ばしたんだ、俺を。
押された腕に、僅かに君の温もりを感じた。
一瞬遅れて、星乃の身体を質量の暴力が襲う。
嘘だろ、やめてくれ。
運命とは、残酷だ。
彼女に伸ばした腕が届くことは、無かった。
………
「うあっ」
ズルリと、足元を掬われる感覚に目が覚める。
暗すぎて状況を把握するのに数瞬掛かったが、どうやら自転車ごと土手から転げ落ちた様だ。
夕方頃から振り始めた雨は次第に強くなり、土手の道を泥濘ませていた。
「……夢、か。」
ひしゃげた自転車にのしかかられながら、何も見えない暗い夜空を見つめる。背中からは冷たい泥が染み込み、不快感でぞわりとする。
しかし、今の自分には先程の夢の情景が何度もリフレインし、そんな不快感等気に留める余裕なんて無かった。
嫌だ、俺を置いて行かないでくれ。星乃。お前の笑顔が、好きなんだ。
夢だと分かっている筈なのに、心は圧迫され、潰れて中身が出てきそうだった。
降りしきる雨の中、瞳から溢れたのは、きっと。
………
……転んだ時にあちこちを打ったらしい。
シャワーを浴びれば、あちこちに湯が染みて痛む。
だが今は、この痛みさえ心地良い。
これはきっと罰なんだ。
俺に星乃と共に居る資格が無いから、彼女にちゃんと気持ちを伝えていないから。
誰か、この世界のルールを決めてるエラい奴を怒らしちまったんだ。
ただぼうっと、幽霊の様に水を浴びる。
無気質なシャワーが泥を、血を、涙を。洗い流してくれた。
もう何日寝てない？
いや、もう、どうでもいい。
シャワールームの鏡に映る自分は、酷く青白く落ち窪んでおり、放っておけば風の前に朽ち果ててしまいそうだった。
ふと、リビングから昼過ぎのニュースが流れてくる。
行方不明だったOLが、山間部でバラバラ死体の状態で発見されたらしい。
やめろ、想像するな、やめろやめろやめろ。
…無言で壁のタイルを殴る。
何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
二の腕まで血が滴ってきた所で我に帰り、その拳を留めた。
今日は山も探してみよう。
そんな所、もし本当に星乃が居た所で1人で見つけられると思っているのか？俺に何が出来るんだ？？
黙れよ、黙れ。
自分の声に自分で声を荒げる。
俺はきっと、狂い始めてる。
星乃…見つけてやれなくて、ごめんな。
お前が居なきゃ駄目なんだ。
………
アテもなく森を彷徨った。
星乃の名前を叫ぶ。何度も、何度も。
喉が掠れ、咳き込み、血が出ても叫び続けた。
返答は無く、静かな森に俺の叫びばかりが吸い込まれていった。
そうしている内、次第に山並みは紅葉色の夕焼けに焼かれ、そして炭色へと移ろいだ。
夜の森は昼間と雰囲気を変え、突然どこからともなく全身を掴み、引き裂きそうな表情を醸し出していた。
頭痛が酷く、まるで真っ直ぐ歩けない。
自分の声の様な音がガンガンと脳内を駆け回っていく。
「見えなくなっても聞こえなくてもずっと隣に居てやるから。」
そう言ったのに。彼女にだけは嘘はつきたく無かった。
ごめんな。許してくれ。ごめんな。
『昴』
ふと、星乃の声が聞こえた気がした。あの凛とした様な、可愛らしい声が。
はは、ついに幻聴まで聞こえてきたらしい。
情けなさに笑えてくる。
誰か居るなら俺を笑ってくれ。
自嘲気味に顔を上げる。
するとそこには………いつからあったんだ？
燃える洋館が煌々と夜闇を照らしていた。
それだけじゃなかった。
その玄関口からは…ああ、何度君を心に思い描いたんだろう。
星乃、お前なんだよな。
…君がいた。
今まで動かなかった身体が、回らなかった頭が。
線画に絵の具を垂らした様に色付いていく。
今度こそ、今度こそ君を掴んでみせる。
気付けば走り出していた。全速力で。
彼女は出入り口から出ると、つんのめった様によろける。
そんな彼女の肩を優しく掴み、抱き起こした。
どうやら意識を失っている様だ。
「おい、星乃！起きてくれ…！ 大丈夫か…！」
肩を揺さぶると、緑の髪が揺れ、蘭とした瞳が俺を捕らえた。
もう限界だった。彼女の事が愛しくて愛しくて仕方が無かった。
抱きしめると、どこかふわりと…花のような香りが鼻孔をくすぐった。
「本当に、本当に無事で良かった…。」
轟々と燃え、崩れる屋敷。それは夜空によく映えていた。
俺が愛した人は、屋敷の炎を受けて頬が染まっていた。あかく、あかく。
瞳を覗き込めば、随分と情けない顔をした自分が映り込んでいただろう。
だけど、視界が滲んでそれはうまく出来なかった。
ふと、彼女が何かを差し出す。
それは美しい指輪だった。初めて見た癖になんだか酷く懐かしい…。
そう感じ入ってしまう、不思議な指輪だった。
大変な目にあっただろうに。星乃、君は、本当に。
俺は情けない顔を悟られないように、見られない様に。
努めて普段通りの声で伝えた。
「ありがとう」
これ以上話せば、震えた声で悟られてしまいそうだったから。
………
星乃は検査入院をした。
幸い外傷等は無く、1日経てばすぐに家へ帰れるだろうという診断だった。
病院の人には無理を言って、一日中一緒にいる許可を貰えた。
今回の事件の事だとか、デートの仕切り直しの事だとか、喋りたい事は山程ある。
でもただ今は、俺の近くで安心して眠って欲しかった。
「おやすみ、星乃」
この言葉が君に言える今が、どうしようもなく幸せだった。
ああ、なんて愛しい寝顔なんだろう。
ふっと、自分の意識も急に暗闇へと落ちていく。
疲れを忘れていた身体が、久方ぶりに正常なスイッチを入れてくれたんだろう。
ごめんな、ちょっと星乃を枕にさせてくれ。文句は起きた時に聞くから。
なぁ星乃、俺の初恋、君に捧げてもいいですか？
↓
※シンデレラは今夜も眠れない のネタバレを含みます。
伝えた。俺の気持ちを。
いや、それ以上の全てを。
色々と二人で光を集めたり世界を救ったりはしたけど、正直あんまり覚えてない。
ただ重要なのは、彼女が笑顔で首を縦に振ってくれた事だけだった。
嬉しいのは当然だけど、感謝の言葉ばかりが浮かんだ。本当にありがとう。
これから二人の時間を創っていけると思うと、嬉しくて堪らない。
抜けてる所も多い俺だけど、大切にします。
だから、このまま一緒に人生を笑って過ごしてくれたら、本当に嬉しいです。
↓
麟太郎から趣味の悪いお守りを貰う。
なんだもにすたくん人形って…。
昴へ。
ごめんなさい。貴方のお陰で手に入れたチャンスを、最高のチャンスを、棒に振ってしまいました。
本当にごめんなさい。ごめんなさい。
貴方には何のことかはわからないでしょう。でもそれでいいんです。
あなたは隣の星乃と、末永く、末永く幸せになってください。
あの日公園の時計台で告白して、それからきっと、星乃と楽しく過ごしてるんでしょうね。
指輪、似合ってますよ。引き続き星乃を大切にしてくださいね。
星乃はせっかちでおっちょこちょいなところがあるけど、貴方の事を想ってくれる、とてもとても良い子です。
君は少し頭が弱い所があるけど、彼女の事はしっかり考えてるもんね。
だからきっとだいじょうぶだよね。
私と同じ失敗はしないでね。
いえ、しないのは分かってます。貴方も狼子も未来であんなに恋人を想ってたんですから。
私は失敗しました。独りよがりな愛なんて、ただの鎖でしかないんです。
それを私は理解していませんでした。かってに鎖を強く握りしめて、自分からも相手からも血が出ているのにも気がつかないで。
愚かでした。
本当の本当に愚かでした。
私としては可愛い君たち二人の会話を再び聞きたかったのですが、私には残念ながらそれがもう叶いそうにありません。
だからせめて、驚異の無い世界で二人、幸せに暮らしてください。
泡沫の夢をありがとう。君のお陰で幸せな夢が見れた。
それじゃあまたね、また会えたらいいな。
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